リタイアおじさんの経理財務分析

元銀行員、元中堅製造業経理担当役員が経験に基づき、経理、財務分析について語ります。

決算の基準は

決算書はなぜ必要

決算書の作成を定めている法令には次の3つがあります。

法人税法

法人税法 | e-Gov法令検索

会社法(会社計算規則)

会社計算規則 | e-Gov法令検索

金融商品取引法(上場企業が対象)

財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則 | e-Gov法令検索

法令以外では、会計基準の基本となる「企業会計原則」(現在は重要性が低下しているようです)や、最近とみに重要性が増しつつある「国際財務報告基準IFRS)」もあります。

企業会計原則

IFRSとは(基礎知識) | 日本公認会計士協会

また中小企業のために「中小企業の会計に関する指針」、「中小企業の会計に関する基本要領」も定められています。

中小企業の会計に関する指針

何を基準に決算をするのか

会計の原則は基本変わらないものの、決算の実務においては微妙な違いがあり、決算に携わる方の頭を悩ましているのではないでしょうか。

勤務していた会社では経理・財務担当役員をしていたので、決算の基準も自分で決めていました。顧問の税理士(会計士)に相談しても、会社に任すというスタンスでした。

私の基準をお話ししますと、基本は法人税法に準拠し、中小企業の会計に関する指針(以下指針と略します)をできる限り尊重するというものでした。

税法に準拠するというのは、非上場の会社で金融商品取引法にはしばられないため、税金を正しく計算ことが最重要と考えたためです。

ただ引当金については、税法は貸倒引当金以外は基本認めていないのですが、賞与引当金、退職給付引当金不良債権・不良在庫等の引当(税法で認められないもの)については、積まない訳にはいきません。

指針でもこれらについては引当金を計上することとされています。

問題は引当額の算定ですが、絶対的な基準がある訳ではありません。

私は、一定の基準で算出していましたが、できるだけ算出額より多くの金額を計上するようにしていました。

そして引当金を計上すれば当然ながら税効果会計繰延税金資産・負債の計上)をどうするかが問題となりますが、採用しませんでした。

当然ながら税理士(会計士の資格もお持ちです)にもその旨を伝え、了解を得ておりました。非上場会社ですので、税金が正しく計算されていれば問題はないとのスタンスでした。

決算説明の際、取引銀行にもその旨を伝えておりました。(説明文書に記載しています)

その理由は次の通りです。

  • 引当金を多めに積み、繰延税金資産を積まないということは、それだけ純資産が少なくなることを意味します。その分経営に緊張感が生まれますし、経営不振に陥った時に取り崩すものがあることから、対応に余裕が出ます。
  • 不良債権に苦しんだ元銀行員としては、多少見栄えが悪くとも、懸念あるものは資産として計上したくないというスタンスを保ちたいという矜持があった。
  • 税効果会計を行うには相応の会計・税務スキルが必要で、中小企業の僅かなスタッフでは対応が厳しい。しかも会社の業績が悪化すれば繰延税金資産の取り崩しが必要となり、財務内容が一気に悪化するおそれがある。

決算書を見る側も注意が必要

銀行等では取引先(大半は中小企業)の決算書を見る機会が多いと思いますが、同じ基準で作られていないことに注意が必要です。

引当金の計上だけでも決算書は大きく変わってきます。

基準が違う決算書を比べて、やれ利益率が高い、自己資本比率が高いといってもどれほどの意味があるでしょうか。

まずはどういう基準で決算書がつくられているのかをきちんと把握するのが、決算書を見る第一歩と思います。

 

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売上の分析が重要

売上の中身を把握することが決算分析の第一歩

経営分析(財務分析)の本を読むと、比率分析等結構テクニカルな話が多くでてくる割に売上の話にはさほどスペースが割かれていません。

決算書(損益計算書)内では、売上高として1行しか表示されていないことが原因かと思われます。

外部からみると、売上高は中身がよく分からないため、分析しずらいのではないでしょうか。

有価証券報告書や税務申告書の後ろの方をみると、売上高の内訳欄がありますが、かなり大雑把なくくりで、分析には限りがあります。

私も税務申告書を作成しましたが、売上高の内訳欄は5種類くらいしか記入していませんでした。税務署も細かい要求はしてきません(税務調査となればコンピュータ内の仕訳データを吐き出せる)ので、こちらも手間ですから簡単にすませていました。

ただ、会社内で決算内容を分析するとなると話は別です。

なにしろ、中身を完全に把握できますので。(当たり前の話です。)

前の会社にいた頃、月初(月明け1週間後くらいに開催)の役員会でかならず前月決算の分析を報告していましたが、大半を売上とそれに対応する原価の分析に費やしていました。

最終的には利益(営業利益、経常利益)の増減要因(対予算比、対前年同期比)を報告するのですが、売上とそれに対応する原価を分析すれば説明は難しくはありません。

 

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私は、売上データの中から、売上高、売上数量、販売単価、原価(システムで計算された積上原価1個当たりの原価)、売上先を抽出してエクセルデータに落として分析に利用していました。

一月で3万行くらいのエクセルデータが出力されるので扱いは面倒ですが、エクセルの機能を活用すれば分析は可能です。

このデータから売上高や粗利益(販売単価ー原価)の変動要因(前年同期や予算と比べての増減)を解明するのが重要です。

簡単な例を下記に示します。

売上高=数量×販売単価

粗利益=売上高―数量×原価

原価はシステム等で計算した標準原価であり、売上原価とは異なります。

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 売上高は3,500、粗利益は3,000増加していますが、その要因を求めると、

  • 売上高はA,Cの販売数量増により5,500増加、ただしBの販売単価が下がったことから2,000の減少があり、結果として3,500の売上増となった。
  • 粗利益はA,Cの販売数量増により2,000、Cの原価削減により3,000合わせて5,000増加。ただしBの販売単価下落により2,000減少したため、結果として3,000増加した。

ということになります。

次はAとCの販売数量増加要因、Bの販売単価下落要因を営業担当に、Cの原価削減要因を製造、仕入担当に確認することになります。

実際には扱う商品の種類が多く(前の会社での数百種類ありました)、分析はこんなに簡単ではありますんが、販売数量の多い商品にターゲットを絞ったり、分類を活用するなどして、対応していました。

利益が固まる前でも決算分析は進められる

前の会社では月次決算(速報ベース)を作成するのに月初4営業日を要していました。(仕入の請求書が全部届くには3日はかかるため、これが限界です。)

通常のペースでは月次決算があがって、残る1日で決算分析資料を作成しないと役員会に間に合いません。

ただ売上高は顧客に請求書を送る都合上、月初の1日で確定します。

売上のデータは月初第2営業日から利用可能になり、売上の分析作業が可能になります。利益が固まらなくても、決算分析は進められるのです。

先ほどの例では、売上高と粗利の額が算出でき、増減要因の分析を行うことができます。もちろん実際の売上総利益と粗利は異なりますが、大きくブレルことはなく、売上総利益の水準をある程度推定することができます。

売上高は企業活動そのものであり、これを分析することが重要です。

固定費の増減要因を把握するのはそれほど大変ではありません。

外部からの決算分析の限界

最初に述べましたように、銀行等外部の人間からは、手に入る売上の情報は少なすぎます。

私は銀行から製造業に移ることにより、決算書を見る側から作る側に変わったのですが、情報量の違いはあまりにも大きすぎます。

詳細な情報を出してくれる企業はほとんどないでしょうから、ヒアリング等で多少なりとも埋めていくしかないと思います。

そのためには取引先の内容をよく把握しておくことが一番なのは言うまでもありません。

財務分析は奥深い世界

財務諸表を見る眼には自信があったのだが

25年間の銀行員生活の中で、支店での融資業務や本部での審査業務(支店から申請される貸出稟議書の承認)の経験が長く、上場企業から零細企業に至る迄、多くの企業の決算書を目にしてきました。金融庁の検査や日本銀行の考査、監査法人ヒアリングの際にも、取引先企業の財務内容について説明してきました。行員への研修も行ってきました。

こうした経験の中で、財務分析・決算書を読む能力については銀行の中でも上位クラスのものがあると自負しておりました。

自ら決算書を作らないと本当のことはわからない

その後中堅製造業に出向(半年後には転籍)すとと今度は決算書を見る立場から作成する立場に変わります。この会社で仕訳業務から決算の作成、税務計算から役員会での毎月の決算説明、はたまた会計システム構築まで経理・財務業務の全てに関与しました。振り返ると、19年間この仕事を続けてやっと決算書の見方が理解できたような気がします。齢60を過ぎてやっと財務分析を語る資格ができたような気がします。

何事も理屈だけではだめで、実践がなにより大切であることを痛感しました。

今銀行にもどればきっとよい仕事ができるかもしれませんが、それはかなわぬ事です。

遅ればせながら、財務分析についての自分なりの考え方をまとめ、少しづつブログに書いていければと思っています。

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